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トンネル吹付けコンクリート用のスマートバッチャープラントの実用化

-コンクリート温度を自動制御して施工性と品質を最適化するICTバッチャープラント-

はじめに

 飛島建設株式会社(社長:伊藤 寛治)および株式会社原商(社長:秀浦 淑晃)は、山岳トンネル建設工事の主要な仮設備である、吹付けコンクリート用のコンクリート製造設備(以下、バッチャープラント)のさらなる合理化を実現する、“スマートバッチャープラント”を開発しました(写真-1)。これまでのバッチャープラントの課題である、季節的なコンクリート温度の変動による品質のばらつきを抑制し、練混ぜ材料のパフォーマンスを最大化するコンクリートの製造を実現しています。特に、冬季のコンクリート温度低下に伴う強度発現性能の低下や、はね返りの増加に伴う施工性の低下を解消し、品質安定と施工費のコストダウンにもつながります。
 また、従来の日付や練り混ぜ数量等の実績データに加え、表面水やコンクリート温度等の練り混ぜ条件データおよび支保パターン等の施工データをデジタル化することにより“クラウド管理”が可能となり、材料管理や品質管理等の管理業務の飛躍的な効率化を実現しています。
 建設現場に仮設されるバッチャープラントに、コンクリート温度自動制御やクラウド管理の機能を装備するのは国内初となります。今後は、通年で安定した品質でのコンクリート生産性の向上、高品質な山岳トンネルの構築、および施工管理業務の効率化・省力化のために、積極的に全国の山岳トンネル建設工事へ展開していきます。

■ 写真-1 スマートバッチャープラント 外観と内部の設備

写真-1 スマートバッチャープラント 外観と内部の設備

開発の背景とスマートバッチャープラントの概要

■ 図-1 コンクリート温度が強度発現性状に及ぼす影響

図-1 コンクリート温度が強度発現性状に及ぼす影響

 山岳トンネルのNATM※1における主要な支保部材である吹付けコンクリートの品質や施工性は、トンネル構造物の品質や建設費に直結します。吹付けコンクリートの品質と施工性はコンクリート温度への依存性が高く(図-1参照)、特に、コンクリート温度が低い場合、初期強度の確保や付着性状を確保するため、急結剤の添加量を調整したり、温水を使用して練り混ぜ温度を上げる方法等が行われてきました。しかしながら、急結剤が過添加となって長期強度が低下したり、練り上がり温度が変動して品質・施工性が安定しないという課題が残されていました。

 そこで、今回、吹付けコンクリートを『安定した温度で製造・供給』できる“スマートバッチャープラント”を開発し、東北地方の山岳トンネル建設工事に導入し実用化することとしました。スマートバッチャープラントの最大の特長は、使用する材料(水、細骨材、粗骨材等)の温度に加え、混錬装置(以下、ミキサ)内の練り混ぜ途中および終了時の温度を測定し、温水と原水の水量を目標練り上がり温度となるように自動調整※2できることです(特許出願中)。これによって、季節や昼夜の気温変動によらず、コンクリートの練り上がり温度を一定にすることが可能となり、急結剤の添加量をむやみに調整することなく、吹付けコンクリートの品質と施工性を安定化させることができます。目標練り上がり温度は、運搬や練り置き時の温度変化も考慮して、吹付けコンクリートの性能を最大限に活用できる温度に設定することで、初期強度や長期強度の品質が安定します。また、付着性が確保できることで、はね返りが少なくなって余吹きが減り、吹付けコンクリートの材料費を5~10%※3程度コストダウンできるとともに、サイクルタイムの短縮にも寄与します。

 図-2に、コンクリートの練り上がり温度を自動制御するスマートバッチャープラントのシステム概念図を示します。例えば、冬季施工の場合、練り混ぜ水は温水ボイラーにより70℃前後まで加温し、細骨材や粗骨材はプラント内のベルトコンベヤ上等で蒸気ボイラーにより加温して使用します。計量器に投入前の各材料は、タンク内やベルコン上の材料温度を温度センサによって測定しておきます。各材料の温度、練り混ぜ時、練り上がり時および施工時のコンクリート温度の測定結果は、無線LAN等を介して制御コンピュータに送信・集約されて、水温や配合・計量制御に活用されます。

■ 図-2 スマートバッチャープラントのシステム概念図

図-2 スマートバッチャープラントのシステム概念図

 次に、図-3には、ミキサ内での練り混ぜ材料の温度測定方法の概要図を示します。
 練り混ぜ時のコンクリート温度は、浄化フィルタ付排気装置でミキサ内に浮遊する微粒分を強制排気した後、シャッタ付連続温度測定装置により非接触で測定します。非接触型の温度測定には、デジタル放射温度センサを用いています。

■ 図-3 ミキサ内のコンクリート温度測定方法の概要

図-3 ミキサ内のコンクリート温度測定方法の概要

 表-1には、練り混ぜ時のコンクリート温度の測定結果を示します。測定時の外気温は27~28℃で、粗骨材、細骨材および水の温度は、それぞれ23.0℃、21.4℃、22.1℃でした。実験時の連続2回の測定で、連続温度測定装置による練り混ぜ時のコンクリート温度はアルコール温度計と同等の精度で測定できることを確認しました。なお、実施工で安定して温度測定する場合には、ミキサ内の強制排気は必須であり、ミキサ周辺の粉じん対策にも有効であると考えています。

■ 表-1 練り混ぜ時のコンクリート温度の測定結果

測定日時練り混ぜ時刻コンクリート温度気温(℃)
2015/7/10実測値(℃)
デジタル温度計アルコール温度計
測定1回目10:3027.12827
測定2回目11:1027.12828

クラウド管理機能の概要

 図-4には、練り混ぜ実績データのクラウド管理機能の概要を示します。
 従来のバッチャープラントでは、トンネル施工時の練り混ぜ実績データを印字プリントされた伝票を使って管理していましたが、スマートバッチャープラントでは練り混ぜ実績データをデジタル化し、インターネット(クラウド)を介して遠隔で取得することができます。この練り混ぜ実績データには、コンクリート温度や表面水率などの品質に関するデータおよび実績支保パターンなどの施工に関するデータが含まれており、管理帳票変換機能によって自動でとりまとめられます。また、バッチャープラントの入口や内部にネットワークカメラを設置することにより、ミキサ車の出入りや骨材の在庫状況などの映像をPCやスマートフォンで確認できます(見える化)。これらのことにより、現場の施工管理者だけでなく、本社・支店の技術者や材料販売業者らが、練り混ぜ実績データとネットワークカメラ映像を遠隔で取得して、吹付けコンクリートに係る品質管理や材料管理業務を短時間で処理し、管理情報を相互に通信、共有化することが可能となり、省力化や管理レベルの向上にもつながると考えています(ICTの利活用)。

  • ※1:山岳トンネルの標準工法.New Austrian Tunneling Method.
  • ※2:熱容量計算に基づき、測定した材料の温度データから、目標練上がり温度となる温水や冷水の温度と加水量を計算して練り混ぜる。
  • ※3:延長1,500m規模の2車線道路トンネルの吹付けコンクリートにおける材料費のコストダウン。

■ 図-4 練り混ぜ実績データのクラウド管理機能の概要

図-4 練り混ぜ実績データのクラウド管理機能の概要

■ 制御パネルのモニタ表示

制御パネルのモニタ表示 練り混ぜ条件データの写真

練り混ぜ条件データ

制御パネルのモニタ表示 施工実績データ:支保パターンの写真

施工実績データ:支保パターン

スマートバッチャープラントの特長

 スマートバッチャープラントの特長を以下に示します。

コンクリート温度の自動制御による特長

  • コンクリート材料に加え、ミキサ内の練り混ぜ時のコンクリート温度を連続測定し、材料温度を自動制御して、季節・昼夜によらず練り上がり温度を一定にできます。
  • 練り上がり完了後の運搬・練置き時の温度変化も考慮して、吹付け作業時のコンクリート温度を材料パフォーマンスが最大に活用できる温度に一定化することで、吹付けコンクリートの品質や施工性が安定化します。
    【強度特性の安定化、付着・はね返り特性の安定化】
  • 吹付けコンクリートの品質や施工性が安定化できることで、トンネル構造物の品質が安定化し、建設費用をコストダウンできます。

クラウド管理による特長

  • 製造実績データについて、従来の紙出力からデジタルデータ化しています。デジタル化により、施工管理業務での入力手間(二重入力)をなくしています。
  • 上記データをネットワークを介して取得可能としています。これによって、取得のために工事事務所から現場へ移動する手間の削減と、データ取得の迅速化を実現しています。
  • 取得したデータが自動的にとりまとめられる管理帳票変換機能を実装しています。これによって、管理のためのとりまとめに関する労力を削減しています。
  • ミキサ車の出入り、骨材の在庫状況などがネットワークカメラによりどこでも確認できます。これらの”見える化”により、材料準備、製造、注文作業などの材料管理業務を効率化しています。

おわりに:今後の展開

 今回開発したスマートバッチャープラントは、東北の復興支援道路を担うこととなる宮古盛岡横断道路岩井地区トンネル工事に導入し、冬季に氷点下20℃にも達する寒冷地での山岳トンネル工事での改良・改善を行いながら、信頼性の高い実用化を目指していきます。また、南北に広範囲に分布する国内の山岳トンネル建設工事への適用を想定して、冬季に加えて、夏季のコンクリート温度上昇時に対応した材料冷却設備やシステム機能の追加整備を行っていく予定です。

 さらに、ここ数年のうちに建設工事が本格化する函館~札幌間の北海道新幹線、金沢~敦賀間の北陸新幹線および中央新幹線の山岳トンネル工事にも積極的に導入を提案し、トンネル構造物の高品質化と建設費用のコストダウンを目指すことで、現場力や受注のための競争力を高めていきたいと考えています。

ニュースリリースに関するお問い合わせ

  • 飛島建設株式会社 経営企画室 広報室
    松尾 和昌 TEL:044-829-6751

技術・資料に関するお問い合わせ

  • 飛島建設株式会社 土木事業本部 土木技術部 トンネルG
    筒井 隆規、熊谷 幸樹、滝波 真澄 TEL:044-829-6713
  • 株式会社原商 岐阜工場
    遠藤 信広、秦 英昭 TEL:0573-62-0082