飛島建設株式会社(東京都港区:社長 乘京正弘)は、画像を入力とする深層学習モデルを活用したトンネル切羽観察システム:Auftakt for Tunnel Faceを開発しました。
山岳トンネル工事では、掘削直後の切羽状況を評価項目ごとに評価・記録し、切羽観察記録を作成する作業である切羽観察が日々実施されています。この際、切羽観察記録の完成には現場と事務所間の往復が不可欠になることや、掘削直後の切羽直近で目視判定作業を行うため安全確保に留意する必要があることなど、業務効率と安全面における問題点がありました。
このような背景から、当社では内閣府 沖縄総合事務局発注の平成30年度名護東道路4号トンネル工事において新技術導入促進(Ⅱ)型工事として「AI等を活用したトンネル切羽の地山判定手法について」を提案し、この中で深層学習の一種である畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、 以下CNN)を切羽写真に適用することの有効性を確認していました。しかしながら、深層学習を活用した切羽観察業務の自動化は判断の根拠を示すことが極めて困難であり、適用においては立ち位置を再検討する必要がありました。
Auftakt for Tunnel Faceは、このような経緯から深層学習を「作業者を補助する技術」として適用し、切羽観察業務を半自動化して省力化することを目的として開発したシステムになります。
Auftakt for Tunnel Faceでは動作過程で画像を入力とする深層学習モデルを組み込んでおり、切羽全体を撮影した写真を用意するだけで自動的に切羽観察記録が生成されることが特徴です。深層学習の導入にはクラウドストレージを活用しており、観察者が切羽写真をアップロードすると自動的にシステムが起動するような実装としています。これによって、切羽観察記録完成までの観察者の操作は写真のアップロードと自動的に作成された切羽観察記録の修正作業の2つだけに圧縮され、作業量の大幅な軽減が期待できます。また、深層学習モデルがクラウドストレージ上に配置されているので、導入・モデルの更新を遠隔で実施することも可能です。
システムの実装イメージ
3種類の深層学習モデルはいずれもCNNをベースとするネットワークを採用しており、切羽写真を入力として一切の手作業を介さずに切羽スケッチと切羽評価点を算出するシステムを実現しています。
GAN はGenerator(生成ネットワーク)とDiscriminator(識別ネットワーク)の2つを競い合うようにして学習するネットワークであり、この技術によって例えば画像から画像へ変換する生成器を構築することが可能です。Auftakt for Tunnel Faceでは、岩種・風化変質度の違いによって生じる見た目の違いをデフォルメして切羽スケッチとして適用するために、切羽写真を入力に用いるGANを構築して組み込んでいます。過去に施工されたトンネル現場の切羽観察記録から、「黒色」、「褐色」、「緑色」といった色に関する文言を参考にしてデータセットを構築した上で学習処理を行っています。
GANによる切羽写真の変換例
切羽観察において評価対象となる切羽上半を画像から切り出すネットワークを構築しました。物体検出のタスクとしては対象が大きく容易なタスク設定であるがゆえに、99%以上の非常に高い確率で適切な検出ができるモデル構築に成功しました。
評価対象検出例
評価項目ごとに識別モデルを構築し、入力画像から評価点を識別します。物体検出ネットワークの出力を用いることで、切羽の天端・左肩・右肩に相当する箇所を自動で切り出して入力画像を用意することが可能となり、切羽評価点算出まで全て自動で実行するシステムを実現しました。
評価点算出フロー
切羽写真などの切羽観察記録に必要な情報をアップロードするためのツールとして、Microsoft社が展開するクラウドサービスであるPower Platformを適用しました。スマートフォン・PCのどちらでも操作可能な入力アプリケーションをPower Appsで構築したほか、クラウドストレージと連携するPower Automateフローを自社開発し、これによって導入・更新・利用の各場面において円滑・安定的に動作するシステムとなりました。
Power Appsの動作例
開発したシステムを国土交通省北海道開発局発注の一般国道5号 共和町新稲穂トンネルR側共和工区工事に導入し、切羽写真の撮影から切羽観察記録完成までの時間が大幅に短縮される効果を確認しました。
本システムを京都府山城南土木事務所発注の宇治木屋線(犬打峠)道路新設改良工事(犬打峠トンネル(仮称)(和束工区))へ導入するなど、実装対象を拡大中です。また、各深層学習モデルの汎用性向上を目的としたデータの収集を推進していきます。さらに、本システムの開発過程で得られた知見をさらに応用し、切羽写真撮影時の安全性向上を目指した技術開発を実施します。
飛島建設株式会社 企画本部 広報室 TEL: 03-6455-8312
飛島建設株式会社 技術研究所 TEL: 04-7198-1101