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コンクリート中鉄筋の腐食状態を非破壊で測定する『Dr.CORR』を研究開発

東京理科大学
PARI
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 東京理科大学(東京都新宿区:学長 石川正俊)、国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所(神奈川県横須賀市:所長 河合弘泰)、飛島建設株式会社(東京都港区:代表取締役社長 乘京正弘)は、コンクリート中の鉄筋の腐食状態を非破壊で測定する『Dr.CORR』(ドクター.コロ)を研究開発し、製造をクリアパルス株式会社(東京都大田区:代表取締役社長 根本龍男)、販売をエフティーエス株式会社(東京都中央区:代表取締役社長 木村浩之)の体制で7月1日より販売を開始しました。

 現在、国内での社会基盤施設の老朽化が叫ばれている中、コンクリート構造物の維持管理においては、劣化が進行している構造物への対策が急務です。コンクリート構造物の維持管理にかかるコストを削減するためには、劣化による変状が顕在化する前に対策を講じる予防保全的な対策を取ることが有効であるという認識が広まっており、法令においても2014 年から知識と技能を有する者が 5 年に 1 度、近接目視を基本とする点検を定めています。この近接目視は、ひび割れなどの変状が顕在化したコンクリート構造物の健全度を把握するのには有効ですが、変状が顕在化する前に対策を講じる必要がある場合には、近接目視の結果に基づいた診断では、手遅れになる可能性も想定されます。

 コンクリート構造物の劣化の一つとして塩害があります。一般に、コンクリート中の空隙水はpH12~13の強アルカリ性であり、鉄は表面に不動態皮膜を形成し、腐食しにくい状態にあります。しかし、コンクリートの中性化や外部から侵入する塩化物イオンの影響によって鉄筋の腐食速度は増大し、その鉄筋の腐食によってコンクリートにひび割れ(以下、腐食ひび割れ)が発生します。鉄筋の腐食が進行するほど、補修や補強に掛かる時間や費用が多くなるため、効率的な維持管理には、腐食ひび割れ発生前に鉄筋の腐食を把握することが重要です。

 このような社会背景を受け、東京理科大学、海上・港湾・航空技術研究所と飛島建設は、コンクリート中の鉄筋の腐食状態を非破壊で測定する方法について共同研究開発を進め、この度、その研究開発成果である鉄筋腐食測定機『Dr.CORR』の市販化を開始しました。

Dr.CORR
写真-1 鉄筋腐食測定機『Dr.CORR』本体および測定プローブ

 鉄筋の腐食状態を把握する方法の一つとして、交流インピーダンス法があります。この方法では、様々な交流周波数でインピーダンスを測定することで得られるインピーダンススペクトルを解析し、鉄筋腐食の指標となる分極抵抗を算出します。コンクリート中の鉄筋のインピーダンススペクトルを得るための手法として、3電極法や4電極法があります。3電極法では測定機器を直接鉄筋に接続するため、印加電流が全て鉄筋に流入するため、測定結果を定量的に扱うことができますが、実際の構造物に適用する際には構造物の一部をはつり出す必要があると言う課題があります。一方、4電極法では測定機器と鉄筋を直接接続する必要がないため、非破壊での測定が可能です。しかし、鉄筋に流入する電流が不明確となるために、測定結果の解釈が難しいと言う課題があります。

 今回研究開発した鉄筋腐食測定機『Dr.CORR』では、測定端子(以下、測定プローブ)の配置などを工夫することにより、上記の課題を解決しました。コンクリートをはつり出すことなく、鉄筋腐食の指標である分極抵抗を、3電極法と同等の精度で得ることができる装置です。

 本測定器は、電源ノイズを減少させるためにPCやモバイルバッテリーから給電する仕様となっており、大掛かりな電源装置が不要です。また、独自の電圧制御システムによって構造物に適切な電圧を印加することにより、精度の高い分極抵抗を取得可能としました。測定プローブは粘着伝導性ゲルによって構造物に接着可能であるため、測定中はハンズフリーの状態となります。測定結果の解析は、等価回路によるフィッティングによって分極抵抗を算出し、既往の手法によって被測定面積を特定することで単位面積当たりの腐食速度を算出可能です。なお、鉄筋と直接接続できるような場合では、3電極法として使用することも可能です。

➢ 3つの測定プローブを鉄筋直上のコンクリート表面に貼り付けることで、コンクリートをはつり出すことなく構造物中の鉄筋のインピーダンスが測定可能。
➢ 測定結果に対して等価回路によるフィッティングと既往手法を適用することによって、鉄筋の腐食速度が推定可能。

1. 測定対象鉄筋の直上に3つの測定プローブを設置。
2. 測定プローブは測定対象と導通している鉄筋上かつ、それぞれの測定プローブが直線距離で1300mm以上離れるように設置。
3. 専用のソフトウェアによってインピーダンススペクトルを自動で取得、解析。
4. かぶり、鉄筋径、鉄筋間隔を入力することで分極抵抗および腐食速度を推定。

腐食測定
図-1 鉄筋腐食測定機『Dr.CORR』による鉄筋腐食測定のイメージ

 測定精度の検証およびデータの蓄積を目的として、いくつかの補修工事現場にて測定を実施しております。その一例として、鉄道高架橋補修工事での適用事例について紹介します(写真-2)。

測定状況
写真-2 鉄道高架橋補修工事での測定状況

 鉄筋と測定機器を接続する3電極法と、『Dr.CORR』の測定結果を比較し、測定結果の精度を検証しました。図-2に測定結果を示します。図中にプロットされる半円を容量性半円と呼び、半円と実数部Re Z軸との交点からなる直径が分極抵抗となります。どちらの方法でも、同程度の分極抵抗となり、同程度の精度であることを確認できました。

電極法
図-2 3電極法と「Dr.CORR」の測定結果比較

 『Dr.CORR』による測定の結果(写真-3)、ノイズの少ないインピーダンススペクトルを得ることができました。表示される判定レベルは、デフォルトの設定ではCEB(ヨーロッパコンクリート委員会)の基準によって表示されるようになっております。判定の閾値については、任意に設定が可能です。測定箇所の鉄筋をはつり出した結果、写真-3に示すように、鉄筋は腐食状態であることを確認しました。

画面と鉄筋
写真-3 腐食測定の画面および測定箇所の鉄筋

 共同研究開発した鉄筋腐食測定機『Dr.CORR』は、コンクリート構造物中の鉄筋の腐食状態を非破壊で測定する技術であり、これにより得られる鉄筋の腐食状態はコンクリート構造物の補修・補強工法の選定における重要な指標になるものと考えています。東京理科大、海上・港湾・航空技術研究所、飛島建設株式会社、クリアパルス株式会社、およびエフティーエス株式会社は、この鉄筋腐食測定機『Dr.CORR』の普及、活用を推進し、橋梁をはじめとする全てのコンクリート構造物の効率的な維持管理の推進に貢献していきます。

飛島建設株式会社 企画本部 広報室 TEL: 03-6455-8312

飛島建設株式会社 技術研究所
  金子 泰明  TEL:04-7198-1101、FAX:04-7198-7586
クリアパルス株式会社 営業部
  山口 明則  TEL:03-3755-0045、FAX:03-3755-7877
エフティーエス株式会社 特機営業部
  藤原 貴央  TEL:03-6206-2220、FAX:03-6206-2221