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「地下の森林」*¹は長期間劣化しないことを実証

-長期気候変動対策には木材の地中利用が有効-

ポイント
・軟弱地盤上の構造物を支え安定化させるために地中に多数の丸太を打設*²することが昔から行われている。
・地中に打設された丸太を解析した結果、構造物を支えるため80年以上前に打設された丸太に劣化が生じていないことを確認。
・地下に打設された多数の丸太は炭素貯蔵庫として長期間気候変動対策に貢献する。

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、飛島建設株式会社技術研究所、ソイルウッドの研究のグループは、地中に打設された丸太が長期間劣化しないことを実証しました。これは、木材の地中利用を進め、あたかも地下に森林を築いたような状態にすることが、気候変動対策に有効であることを科学的に示す成果です。

大気中の二酸化炭素を吸収・固定する森林は、炭素貯蔵庫として気候変動対策に効果を発揮することが広く認められています。一方、軟弱地盤上の構造物を支え・安定化させる目的で古くから地中に多数の丸太を打設することが行われてきました。地中に打設された丸太は、森林が炭素貯蔵庫であるのと同様、地下に炭素を貯蔵していることになります。そこで我々は地中に打設された丸太を「地下の森林」などと呼んでいます。「地上の森林」に貯蔵された炭素は、経済活動に伴う伐採や強風、火災など様々な要因により、場合によっては容易に減少してしまいます。では、「地下の森林」に貯蔵された炭素はどうでしょう。しかし、これまで「地下の森林」の劣化を厳密に評価した研究はありませんでした。なぜなら打設した丸太の初期密度がわからないため、掘り出された丸太密度から固定炭素量の減少を推定することができなかったからです。

過去の事例研究から地中の酸素濃度が低い場所に打設された丸太の劣化は外周部から進行することが分かっています。そこで80年以上にわたって酸素濃度が低い地下水位以深におかれていた丸太の外周部から内部にわたる密度の変動を軟X線デンシトメトリー*³と呼ばれる方法で詳細に解析したところ、丸太の外周付近と内部との密度に差が認められませんでした。初期密度が不明であってもこの方法を使うことで80年以上にわたって丸太全体が健全に保たれていたことが確認できたのです。気候変動対策の一つとして木材製品の長期利用が注目されています。本研究は木材製品を「地下の森林」として活用することが軟弱地盤対策だけでなく気候変動対策にも貢献できることを新たな手法を通して明らかにしました。

本研究成果は、2025年5月14日にJournal of Wood Scienceでオンライン公開されました。

丸太を地中に打設する工法がさまざまな場面で活用されています*⁴。これらの工法は、丸太を軟弱地盤対策として使うだけでなく、丸太を長期間地中に打設したままにしておくことで「地下の森林」として気候変動対策にも貢献することを目指しています。しかし、地中に打設された丸太の寿命に関するデータは少なく、「地下の森林」がどの程度気候変動対策として有効か明らかになっていませんでした。というのも、数十年以上前に打設された丸太はその初期密度が分からないため、たとえ丸太を掘り出し密度を測定できたとしても、その値が初期値から何%低下したのか示せなかったからです。
そこでヨーロッパ等の先行論文に当たったところ、顕微鏡観察などによる定性的な研究はあるものの、気候変動対策に対する効果を評価する際に必要となる質量や密度に関するデータはほとんどないことが分かりました。その一方、これら定性的な研究から、地中の低酸素条件下で丸太が劣化する場合は丸太外周部から丸太内部へとバクテリア*⁵によって劣化が進行すること、酸素濃度が特に低い場所ではバクテリアによる劣化がほとんど起こらないこと、バクテリアによる劣化は心材に到達すると止まることなどが確認できました。

福井県で採取した80年以上にわたり全体が地下水面以深に打設されていた4本のマツ杭を対象に実験を行いました。マツ杭の上部・中央部・下部から幅約2cm、厚さ2mmの薄片を48枚作製し、これを試験体とし、これらを軟X線デンシトメトリーで詳細に観察しました。具体的には、試験体に軟X線を照射し、試験体を通り抜けた軟X線をフィルムに捕捉しました。試験体を通り抜ける軟X線の量は試験体の密度によって異なるため、試験体各部の密度の違いが画像としてフィルム上に現れます(図1)。この画像データを丸太の外周から内部に向かう密度のデータに変換したものが図2となり、さらにこれら個々の試験体から得られたデータ48枚分を集約し、丸太の表面から内部にかけて密度の変動がどのように分布するのかを模式的に示したものが図3となります。

図1
図1 丸太断面の軟X線写真

厚さ2mmの試験体に軟X線を照射して得た試験体のイメージ。密度が高い部分が白く、密度が低い部分は暗く描画されます。

図2
図2 丸太内の密度のプロファイル

図1の色の濃淡を密度に換算して図示したもの。数字の書いてある部分が図1の色の白い部分に相当する。

図3
図3 複数の丸太内密度変動グラフから再構成した丸太表面からの距離と平均密度との関係を示すグラフ

点線はバクテリアによる劣化が起きた際に生じることが予想される密度変動

実線は地中から取り出した丸太密度の実測値から得られた密度変動

背景のところで説明したように、地中に置かれていた丸太にバクテリアによる劣化が生じた場合は、丸太外周付近の密度が低下しているはずです(図3点線)。しかし掘り出した丸太では、図3の実線が示すように外周付近での密度低下は観察されず、外周・内部ともほぼ同じ密度を示していました。これはバクテリアによる劣化(密度低下)が生じていないこと、すなわち丸太が80年以上にわたって炭素貯蔵庫としてその役割を果たし続けたことを意味しています。一方、劣化しやすいと考えられる早材*⁶だけに着目して解析した結果では、一部に密度の低下が認められたのも事実です。数百年間という非常に長い期間埋設し続ければ、晩材部*⁶まで徐々に劣化が広がり、最終的には全体の密度も低下していく可能性があります。

気候変動の抑制に向け気候変動枠組条約の下でさまざまな対策が進められていますが、その一つ木材製品の利用が挙げられています。近年この木材製品に対するルールが変わり、木材製品を使用している間その製品の炭素量を炭素蓄積量としてカウントできるようになりました。ただ、このルールには科学的根拠のある数字が必要であるため、現在製材(半減期35年)及びパネル(半減期25年)の使用量のみが炭素蓄積量としてカウントされています。
本研究により「地下の森林」では炭素蓄積量の半減期が製材などと比べ格段に長くなることが明らかとなりました。今後このような科学的な根拠を積み上げ木材製品の炭素蓄積量の計算に「地下の森林」を計上できるようにしていくことで、木材需要拡大及び気候変動の防止に貢献できると考えています。

タイトル : Evaluation of the carbon sink potential of wooden foundation piles embedded in
oxygen-depleted soils using density profile analysis
著者 : Ikuo Momohara, Kana Yamashita, Yuka Miyoshi, Takumi Murata, Atsunori Numata
掲載誌 : Journal of Wood Science
論文URL : https://doi.org/10.1186/s10086-025-02198-w
研究費 : 文部科学省科学研究費補助金(23K23675)など

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、ソイルウッド

*¹ 「地下の森林」

現在定まった用語はありませんが、ここでは「地上の森林」との対比で「地下の森林」としています。「地下の森林」以外に「地中の森」などと表現することもある。

*² 打設

ここでは、地盤を締め固めるために重機などを使って多数の丸太を地中に打ち込むこと。なお、振動を出さないよう圧力をかけながら杭を静かに地中に押し込む方法なども打設と呼ぶ。

*³ 軟X線デンシトメトリー

物質の密度を軟X線の透過量から定量的に求める方法。軟X線は、通常のX線より低いエネルギーをもつため、木材のような軽い材料内部のわずかな密度差を詳細に観察するのに適している。

*⁴ 丸太の打設例

例えば、千葉市美浜区内の民間分譲住宅の造成地(17,000m2)に液状化対策として13,000本以上の丸太を打設した例などがある。 https://www.tobishima.co.jp/technology/environment_earth/earth_carbonstock.html

*⁵ バクテリア

動物や植物とは異なり細胞内に複雑な細胞構造を持たない微生物の総称。

*⁶ 早材・晩材

スギ材やマツ材の年輪を確認すると色の薄い部分と濃い部分とが交互に現れるが、色の薄い部分が早材、濃い部分が晩材。密度は早材の方が晩材より低い。

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