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建設材料の技術

飛島の技術-共通のメインビジュアル

TDRブレイブショット工法

作業終了後、初電通過前までに強度発現、3時間で圧縮強度6N/mm²、付着強度0.6N/mm²を実現

 鉄道トンネルにおけるモルタルによる断面修復工事は、電車が止まっている夜間での工事であり、施工時間が2~3時間程度と短い中で、1回の施工で8~10cmの厚さを施工する必要があります。さらに施工後直ちに列車が通過することから、列車通過時の風圧や振動の影響を受けない、早期の強度発現性と、かつ平滑な仕上げができる施工性が求められます。

 本工法は、鉄道高架橋や道路橋で約20,000m²の施工実績を有する「TDRショット工法」を改良し、従来では不可能だった施工後数時間での強度発現、具体的には3時間で圧縮強度6N/mm²、付着強度0.6N/mm²を実現しました。さらに1回の施工で100mm程度の厚さが施工でき、施工表面を左官仕上げできるハンドリング時間も確保できます。

※TDRショット工法(Tough and Durable Repair Shot/高耐力かつ高耐久な吹付け補修工法)
 TDRブレイブショット工法(TDR Brave Shot/TDR+どんな厳しい状況にも対応できる工法)

列車通過時の風圧と従来の断面修復工法の課題

 劣化したコンクリート構造物の補修方法として、劣化したコンクリートを撤去し、ポリマーセメントモルタルの吹付けやコテ塗りによる断面修復工法が標準的に用いられています。しかしながら、ポリマーセメントモルタルは、材料の粘性によって、施工厚さを確保することから、一度の吹付け厚さでは約30mm程度の増厚が限界であり、時間をおいて何層かに分けて、所定の施工厚さを確保する方法をとります。

写真-1 頂版部の劣化コンクリートの撤去状況(施工厚さが10cm程度)

写真-1 頂版部の劣化コンクリートの撤去状況(施工厚さが10cm程度)

 都市鉄道の維持管理では、深夜24時以降の最終列車が通過後、起電停止を行い、さらに早朝5時前の始発電車が通過するまでに、作業の段取りも含め、全ての作業を完了させなければなりません。このため、実質の作業は2~3時間と短く、さらに作業完了後直ちに列車が通過すると言う厳しい環境です。特にカルバートトンネルの天端、側壁の補修は、重力に反した条件での施工であり、より一層厳しくなります。そのため、断面修復工法に求められる要求性能として、以下が求められます。

  1. 短時間で所定の厚さ(100mm程度)の施工が可能なこと
  2. 施工直後の列車通過時の風圧の変化や乾燥に対し、補修部材に「ひび割れ」「浮き」「はく離」などの悪影響が出ないこと

 列車通過時の圧力の変化については、飯田ら*1の実験・解析的研究で示されています。ここでは、新幹線のトンネル内で列車が交差し、さらに離反する際の壁面に作用する圧力変化を求めています。前者の場合、+10kPa、後者の場合で-10kPaとされています。この圧力は、列車の通過速度が速くなれば大きくなり、トンネル断面内に占める列車の面積が大きくなれば大きくなります。仮に±10kPaの圧力とは、水深では約1mの圧力となります。このような圧力が壁面に瞬時に作用することを想定する必要があります。

寸法単位:mm

列車交差時の圧力(正圧+10kPa) 図

列車交差時の圧力(正圧+10kPa)

■ 図-1

列車離反時の圧力(負圧-10kPa) 図

列車離反時の圧力(負圧-10kPa)

■ 図-2

都市トンネルは新幹線に比べ、 速度は低いが列車面積が占める割合が大きい 図

都市トンネルは新幹線に比べ、 速度は低いが列車面積が占める割合が大きい

■ 図-3

10kPaは水深1.0mの圧力に相当、 瞬時にこの規模の正負圧力が壁面に作用する

10kPaは水深1.0mの圧力に相当、 瞬時にこの規模の正負圧力が壁面に作用する

■ 図-4

 また、断面修復材が硬化する前に列車が通過するとその風の影響で補修部材が乾燥し、強度低下やひび割れの発生などの品質低下を招き易くなります。

 要求性能②に示すように、補修工事後、列車が通過する際には、断面修復材にも一定の強度、付着力の発現が求められます。ところがポリマーセメントモルタルに代表される通常の断面修復材では、強度が発現する前に列車が通過しています。

*1:トンネル内圧力変動シミュレーション、飯田雅宣、前田達夫、鉄道総研報告、‘90.7

TDRブレイブショット工法の概要と優位性

 TDRブレイブショット工法のベースとなる「TDRショット工法」は、高品質の混和材を配合した無機系プレミックスモルタルで、図-5に示すように、圧縮空気に硬化促進剤を添加し、ミスト化してモルタルと混合、補修面に吹き付けます。硬化促進剤の効果により、モルタルが瞬時に可塑性することで、補修部材の厚付け(100mm程度)を可能にしました。

■図-5 TDRショット工法の施工システム

■ 図-5 TDRショット工法の施工システム

 TDRブレイブショット工法は、このTDRショット工法の技術、システムをベースに、都市トンネルでの断面修復材の要求性能①、②を満足すべく、左官仕上げができるハンドリングタイムを有し、早朝の初電通過時も十分な強度発現が期待できる断面修復工法です。

■ 図-6 TDRブレイブショット工法の強度発現状

■ 図-6 TDRブレイブショット工法の強度発現状

 従来のTDRショット工法のモルタル配合に、新たに高性能な急硬材(カルシウムアルミネート系)をプレミックスし、これに遅延剤(オキシカルボン酸系)を配合しています。さらに吹き付け時に圧縮空気に添加した硬化促進剤(アルカリフリー液体急結材)を混合することで、3時間で圧縮強度6N/mm²、付着強度0.6N/mm²を実現しました。さらに強度が速く出現することで、風による初期乾燥の影響を受けにくく、収縮ひび割れの発生も低減できます。
(東京地下鉄(株)の早期強度の基準、24時間で付着強度0.6N/mm²を3時間で達成できます。)

基本配合

TDRブレイブショット工法の基本配合を表-1に示します。

表-1 TDRブレイブショット工法 吹付けモルタル配合

W/P 遅延剤添加率 硬化促進剤添加率 単位量(kg/m³)
プレミックスモルタル
13.0% 0.5~1.0% 0.5~2.0% 250 1925

圧縮強度、付着強度(社内試験)

表-2 TDRブレイブショット工法 基本性能(N/mm²)

種類 強度特性 3hr 6hr 24hr 7日 28日
TDRブレイブショット工法 圧縮強度 7.7 11.0 26.9 44.2 52.3
付着強度 0.63 0.69 1.2 2.5
TDショット工法(従来) 圧縮強度 0.21 0.64 14.0 30.5 42.3
付着強度 0 0.15 1.1 1.6 2.1

乾燥収縮(社内試験)

種類 養生条件 寸法変化率
NEXCO断面修復材基準 JHS432試験法/48hr 脱型20℃、湿度60% 500μ以下
TDRブレイブショット工法 400μ
TDRショット工法(従来) 450μ

施工厚さ100mmを一気に厚付け、左官仕上げを実施

(施工厚さ100mmを一気に厚付け、左官仕上げを実施)

■ 写真-2 TDRブレイブショット工法の施工状況

連続的に吹き付けして、施工厚さ150mm以上に増厚

(連続的に吹き付けして、施工厚さ150mm以上に増厚)

■ 写真-3 TDRブレイブショット工法の吹付け状況

吹付け30分後でハンマーの痕が残らない

(吹付け30分後でハンマーの痕が残らない)

■ 写真-4 硬化状況

多様なニーズへの対応
 本工法は、厚付け施工性、強度発現性に優位性を有しています。鉄道に限らず、例えば、橋梁基礎の干満帯のように、従来補修が難しかった箇所への対応や、緊急補修が必要とされる場合など、多様なニーズへの対応が期待されます。