技術概要
適切な騒音対策を実施するためには、騒音の発生源を特定することが重要です。騒音発生源をよりわかりやすく特定するため様々な音の可視化技術が提案されています。しかし従来手法は計測結果がディスプレイ上で平面的に表示されるため、発生源の位置情報がわかりにくいといった課題がありました。
音場可視化システム「OTOMIRU」では、このような課題を解決するため、3次元空間上で3DCGモデルを表示できる光学透過型ヘッドマウントディスプレイやタブレット端末(MR・ARデバイス)を用いて任意断面の音圧レベル分布を実空間上で表示することを可能としました。
本システムは、早稲田基幹理工学部表現工学科・株式会社INSPIREIの及川靖広教授と共同で開発した技術です。
MR・ARデバイスを通して表示される音圧レベル分布の計測結果
システムロゴ
技術の特徴
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- 本システムでは音の可視化手法であるビームフォーミング法 *1により、任意断面の音圧レベル分布を算出しています。ビームフォーミング法では音圧レベル分布がリアルタイムで出力されるため、突発的に発生する音も可視化することができます。
*1 ビームフォーミング法:
マイクロホンアレイ(複数の無指向性マイクロホンを平面上に配置したもの)を用い、任意断面の音圧レベル分布を算出する手法。ある方向からの音が各マイクロホンに到達するときの時間差を求め、それぞれで収録した信号に遅延などの処理を行うことにより、特定の方向における音圧レベルを求めることができる。これにより、計測断面の各計算メッシュの音圧レベルを算出する。
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- MR・ARデバイスは複数台同時に接続可能となっており、マイクロホンアレイに設置したARマーカーを基準点として複数台のデバイスで同じ計測結果を見ることができます。これにより、複数人でリアルタイムに計測結果を共有することができ、音の評価や対策を円滑に進めることができます。
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- 実空間上に表示された音圧レベル分布のカラーマップは、ユーザーが移動しても元の位置に固定され続けるため、自由な場所で音を評価することができます。発生している音を様々な箇所で聴きながらカラーマップを確認することで、視覚と聴覚により音場情報を確認することができます。
従来工法との比較・長所
従来のビームフォーミング法による音の可視化結果は、PCなどのディスプレイ上で提示されることが多く、奥行方向の計測断面位置を把握しにくいという課題がありました。一方本システムでは、音圧レベル分布を示すカラーマップが実空間上に表示され、計測している断面位置を視覚的に把握することができます。これによって、従来手法に比べより正確に音源の位置を捉えることができ、音の反射や伝搬に関する検証においても精度を向上させることができます。
建設工事現場で発生する騒音は、主に現場敷地境界における騒音レベルで管理されることが多いですが、本システムを適用することで建設重機など複数の騒音源からの影響を視覚的に示すことができ、より迅速な騒音対策に寄与することができます。
主な適用範囲
- 建設工事現場での騒音管理、騒音源探査、騒音対策効果の検証
- 部材の遮音性能や漏音箇所の検証
- 建築空間の音響性能に関する検証
- エンタメ業界への応用
建設工事現場での騒音源探査(重機近傍での可視化結果)
建築空間の音響性能の検証(残響対策効果の可視化結果)
外部団体からの表彰・外部団体への登録状況
- XR Kaigi 2021 Awardアプリケーション部門優秀賞
音場の可視化フロー
- 計測処理部では、16chのマイクロホンアレイで収録した音をビームフォーミング処理し、マイクロホンアレイ前面から任意の距離の断面内の音圧レベル分布を算出します。
- 音圧レベル分布の情報はバイナリデータとして可視化処理部であるMR・ARデバイスにリアルタイムで転送されます。
- 可視化処理部では、転送された音圧レベル分布がカラーマップに変換されます。デバイスに搭載されたセンサーにより計測対象空間の形状が認識されるため、カラーマップが実空間上に重畳され可視化されます。
システム構成
可視化処理部での処理フロー
- Keyword
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- 関連資料
- 飛島建設ニュースリリース:リアルタイム音響可視化システム「OTOMIRU」を開発 |飛島建設 (tobishima.co.jp)
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- 飛島建設YouTube:リアルタイム音響可視化システム「OTOMIRU」 / Real-time acoustic visualization system "OTOMIRU" - YouTube
- 関連技術
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- 関連論文
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- 井上敦登、寺岡航、及川靖広、佐藤考浩、岩根康之、小林真人:光学透過型ヘッドマウントディスプレイを用いた音圧分布可視化手法に関する研究-その1 システム構成とデータ処理の概要-、日本音響学会2021年秋季研究発表会講演論文集、2021.9
- 佐藤考浩、岩根康之、小林真人、及川靖広、井上敦登、寺岡航:光学透過型ヘッドマウントディスプレイを用いた音圧分布可視化手法に関する研究-その2 実験室および屋外におけるシステム有効性の検討-、日本音響学会2021年秋季研究発表会講演論文集、2021.9
- 井上敦登、寺岡航、及川靖広、佐藤考浩、岩根康之、小林真人:光学透過型ヘッドマウントディスプレイを用いた音圧分布可視化手法に関する研究-その3 実用化に向けたシステム改良とARデバイスを用いた音場可視化への応用-、日本音響学会2022年秋季研究発表会講演論文集、2022.9
- 佐藤考浩、岩根康之、小林真人、及川靖広、井上敦登、寺岡航:光学透過型ヘッドマウントディスプレイを用いた音圧分布可視化手法に関する研究-その4 実測によるシステムの活用方法に関する検討-、日本音響学会2022年秋季研究発表会講演論文集、2022.9
- Atsuto Inoue、Wataru Teraoka、Yasuhiro Oikawa、Takahiro Satou、Yasuyuki Iwane、Masahito Kobayashi:Sound Field Projection System using Optical See-Through Head Mounted Display、InterNoise、Paper Number 1797、2021.8